リスキリングで年収は上がるのか|公的データで見る学び直しと転職の実情【2026年】
リスキリングを始めようとして「本当に年収が上がるのか」で手が止まっている人へ。転職で賃金が上がった人の割合、学び直しをしている人の割合、そして途中で止まる理由を、国の統計だけで整理しました。講座の「転職成功率」の読み方も併せて。
リスキリングという言葉をあちこちで見て、講座を調べ始めた。ところが調べるほど「本当に年収が上がるのか」が分からなくなる。
出てくるのは「転職成功率98%」のような数字ばかりで、それが何を数えた98%なのかは書かれていない。
そこで止まっている人は多いと思います。ここでは講座の宣伝文句をいったん置いて、国の統計だけで実情を見ます。良い数字も悪い数字も両方出てきます。
転職で賃金は上がっているのか
まず、転職した人の賃金が実際にどう変わったか。厚生労働省の「雇用動向調査」が毎年調べています。令和6年(2024年)1年間の結果です。
転職した人の賃金は前職と比べてどうなったか(令和6年)
単位:%
増加した
変わらない
減少した
※出典:厚生労働省「令和6年雇用動向調査」表6。増加のうち「1割以上の増加」が29.4%、「1割未満の増加」が11.2%。減少のうち「1割以上の減少」が21.7%。前年と比べて「増加」は3.3ポイント上昇、「減少」は3.0ポイント低下。
増加40.5%、減少29.4%。差は11.1ポイントで、増加のほうが多い。
しかも前年と比べて増加は3.3ポイント上がり、減少は3.0ポイント下がっています。転職市場の環境そのものは、賃金の面で改善方向にあります。
ただし、この40.5%を「転職すれば4割の確率で上がる」と読むと外れます。年代別に見ると分布が大きく違い、55歳を境に増減が反転します。
| 25〜29歳 | 増加46.3% / 減少29.2% | 増加が17.1ポイント上回る |
| 45〜49歳 | 増加46.4% / 減少23.8% | 増加が22.6ポイント上回る |
| 50〜54歳 | 増加39.0% / 減少28.2% | 増加が10.8ポイント上回る |
| 55〜59歳 | 増加27.4% / 減少36.6% | 減少が9.2ポイント上回る |
| 60〜64歳 | 増加13.6% / 減少60.9% | 減少が47.3ポイント上回る |
40代までは、転職で賃金が上がる人のほうが20ポイント前後多い。50代前半でも増加が優勢です。
ところが55歳を超えると逆転し、60代前半では減少が60.9%に達します。
この境目は、学び直しの目的設定に直接関わります。40代までなら「学んで転職して年収を上げる」は労働市場の流れに乗った選択です。
一方55歳以降は、転職による年収増を主目的にすると流れに逆らう形になり、同じ努力でも結果が出にくい。
同じ「リスキリング」でも、狙う先を変えたほうが噛み合います。
学び直しをしている人は3人に1人
次に、そもそも何人が学び直しをしているのか。
厚生労働省「令和6年度 能力開発基本調査」によると、令和5年度に自己啓発を行った人の割合はこうなっています。
自己啓発を行った人の割合(令和5年度)
単位:%
労働者全体
正社員
正社員以外
※出典:厚生労働省「令和6年度 能力開発基本調査」図74。男性41.9%、女性30.7%。
全体で36.8%。3人に1人程度です。正社員なら45.3%まで上がりますが、正社員以外は15.8%にとどまります。
「まわりはみんなリスキリングしているのに自分だけ遅れている」と感じているなら、この数字は少し気が楽になるかもしれません。
実際にやっている人は多数派ではありません。
年齢別に見ると、はっきりした傾向があります。
自己啓発を行った人の割合(年齢階級別・令和5年度)
単位:%
20〜29歳
30〜39歳
40〜49歳
50〜59歳
60歳以上
※出典:厚生労働省「令和6年度 能力開発基本調査」図74。20歳未満は8.9%。
30代の45.0%を頂点に、年齢が上がるほど下がっていきます。60歳以上では20.6%。
前の章で見た「55歳以降は転職で賃金が下がる人が多数派」というデータと重ねてみます。
年齢が上がるほど学び直しの見返りが見えにくくなり、実施率も落ちていく。そういう構図が見えてきます。
逆に言えば、40代・50代で学び直しをしている人は、その年代の中では3人に1人以下の少数派です。
同世代との比較で言えば、それ自体が差になります。
続かない理由は、意志ではなく時間と費用
「やろうと思ったのに続かない」のは意志の問題として語られがちですが、統計では別の姿が出ています。
自己啓発をする上で何らかの問題があるとした人は、労働者全体で79.2%(正社員82.9%、正社員以外70.2%)。8割が何かに引っかかっています。
内訳は次のとおりです。
自己啓発を行う上での問題点(正社員・複数回答)
単位:%
仕事が忙しくて余裕がない
家事・育児が忙しくて余裕がない
費用がかかりすぎる
※出典:厚生労働省「令和6年度 能力開発基本調査」図88。正社員以外では「仕事が忙しくて余裕がない」35.3%、「家事・育児が忙しくて余裕がない」33.3%、「費用がかかりすぎる」26.8%の順。
1位は「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」で55.9%。半数以上が時間の問題を挙げています。2位が家事・育児で26.3%、3位が費用で25.7%。
上位3つはいずれも意志や能力の話ではありません。時間の確保と費用という、条件の問題です。ここが動けば実行できる人が相当数いる、という読み方ができます。
もう1つ、見過ごせない項目があります。正社員の女性では、問題点の3位が「自分の目指すべきキャリアがわからない」(26.1%)でした。
男性の3位が「家事・育児が忙しい」(21.3%)であることと対比すると、何を学ぶかの前に、どこへ向かうかが決まっていない状態が可視化されています。
「何を学ぶか」より前の段階でつまずくことがある
講座を比べ始める前に、目指す方向が決まっていないと選べません。
この段階の相談を職業として担うのがキャリアコンサルタントです。教育訓練給付金の手続きにも「訓練前キャリアコンサルティング」が組み込まれています。
制度上、受講前に一度キャリア相談を受ける設計になっているのは、この順序が必要だからです。
講座の「転職成功率98%」をどう読むか
ここからは統計の話ではなく、読み方の話です。
スクールや講座が掲げる「転職成功率○%」には、公的な計算ルールがありません。
資格試験の合格率のように統一された分母がないので、各社が自社の基準で計算しています。同じ「98%」でも中身は変わります。
分母は誰か
受講した全員か、修了した人だけか、転職を希望した人だけか。途中でやめた人が分母から外れていれば数字は上がる。
成功の定義は何か
内定1件で成功か、希望職種への転職か、年収が上がった場合だけか。定義が書かれていない数字は比較できない。
いつまでの話か
修了後3か月以内か、1年以内か。期間が長いほど数字は上がる。
この3つが明記されていない数字は、他社の数字と並べても意味がありません。
公式サイトに定義が書かれているか、書かれていないかを見るだけでも、その講座の姿勢は分かります。
そして、講座ごとの就職実績を横断的に調べた第三者の調査は存在しません。
厚生労働省が公表しているのは「教育訓練給付制度の指定講座かどうか」までで、講座別の就職率や年収の変化は公表されていません。
だから「どの講座がいちばん転職に強いか」というランキングは、どこかの自称数値を並べたものになります。この記事でもその比較はしません。
比べられるのは、定義がはっきりしている次のような要素です。
- 給付金の指定講座かどうか(厚生労働省の講座検索システムで確認できる)
- 受講料と受講期間
- 学習形態(通学の有無、オンラインの同時参加が必要な曜日・時間帯)
- 資格取得を目的とする講座なら、その資格の公表された合格率
費用の問題には公的な答えがある
問題点の3位に挙がった「費用がかかりすぎる」(正社員25.7%)については、制度側に対応があります。教育訓練給付制度です。
| 一般教育訓練 | 受講費用の20%(上限10万円) |
| 特定一般教育訓練 | 40%(上限20万円)、資格取得+就職で50%(上限25万円) |
| 専門実践教育訓練 | 50%(年間上限40万円)、資格取得+就職で70%(56万円)、賃金5%以上上昇でさらに80%(64万円) |
出典:ハローワークインターネットサービス 教育訓練給付制度。
70%・80%の上乗せは2024年10月1日以降に受講を開始した人が対象です。
専門実践の指定講座なら、30万円の講座が条件次第で自己負担9万円台まで下がります。
費用を理由に止まっている4分の1の人にとっては、この制度を使えるかどうかが最大の分岐点になります。
ただし、受講を始める前に済ませる手続きがあります。
特定一般・専門実践では、訓練前キャリアコンサルティングを受けてジョブ・カードを作ります。
そのうえで、原則として受講開始日の2週間前までにハローワークで受給資格確認を済ませる流れです。
この順序が逆になると支給の対象外になります。
自分が対象かどうかは、ハローワークの支給要件照会で受講前に確かめられます。
雇用保険の加入期間で支給率も変わるので、見込みで判断せずに照会すると早く分かります。
学び直しの先を国家資格に置く場合
給付金の対象になりやすいのは、修了に一定時間以上かかり、資格取得につながる講座です。
次の講習は専門実践教育訓練の指定講座で、修了すると国家資格キャリアコンサルタントの受験資格が得られます。
地域連携プラットフォームの養成講習(給付金指定講座)
国家資格キャリアコンサルタントの養成講習。Zoom中心のオンラインで受講料297,000円(税込)、通常コース約3か月。専門実践教育訓練給付金の指定講座(指定番号1110055-2010011-0)なので、条件を満たせば自己負担は9万円台まで下がります。
297,000円(税込)/給付金指定講座
開講スケジュールを見る生涯キャリア支援協会(パソナ)の養成講習
同じくキャリアコンサルタントの養成講習で、養成講習と試験対策をフルオンライン5.5か月、受講料385,000円(税込)。修了後に有資格者ネットワークやキャリアコンサルタント求人の案内があります。申込前にオンラインガイダンスを受けられます。
385,000円(税込)/給付金指定講座
オンラインガイダンスを見るこの資格の試験の難易度、受験者の年齢層、取得後に収入がどう変わっているかはキャリアコンサルタント試験の記事にデータをまとめています。
登録者の41.2%はこの資格から収入を得ていない、という数字も含めて書いてあるので、期待値を合わせてから決めるほうが後悔が少ないと思います。
まとめ
- 転職での賃金:令和6年は増加40.5%、減少29.4%。環境は改善方向
- 年代で反転:40代までは増加が20ポイント前後優勢、55歳以降は減少が多数派
- 実施率は36.8%:学び直しをしている人は3人に1人。正社員以外は15.8%
- 止まる理由は条件:8割が問題あり。1位は時間(55.9%)、3位が費用(25.7%)
- 講座の成功率は比較不能:分母の定義に統一ルールがなく、横断調査も存在しない
次にやること — ハローワークで教育訓練給付金の支給要件照会をしてみてください。自分が20%・40%・50%のどれに該当するかで、選べる講座の範囲そのものが変わります。講座を比べるより先にここが決まると、候補が一気に絞れます。
転職の賃金変動は厚生労働省雇用動向調査、学び直しの実施状況は能力開発基本調査で毎年公表されます。
給付金の制度内容と対象講座はハローワークインターネットサービスと教育訓練給付制度 検索システムが一次情報です。
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